「引っ越し当日だから引っ越しそばにしよう！」「引っ越しそばって新居で食べるものじゃなくて引っ越し先で配るものじゃないの？」引っ越しそばについては諸説ありますが、時代の流れに適合して残り続けている風習です。今回は、引っ越しそばの由来と常識についてご説明します。香川県にあるちょっと変わった引っ越しうどんの風習もご紹介しますのでお楽しみに！
引っ越しそばは食べるもの？渡すもの？
「引っ越しそば」と聞くと「引っ越した当日食べるもの」と信じていませんか？年越しそばと同じような感覚で、忙しい引っ越しの日には簡単な食事で済ませる生活の知恵だと思っている人も少なくありません。
実は、引っ越しそばの発祥から現代までの流れを見てみると、「引っ越した先で、これからお世話になる近所の人や大家さんにそばを振る舞う」という習慣が先なんですよ。引っ越しそばの歴史を、少し追いかけてみましょう！
引っ越しそばはもともと新居のご近所さんに「配る」ものだった
引っ越しそばの習慣が発生したのは江戸時代、場所も江戸。当時、引っ越しした先で挨拶として隣の住人や大家さんにお餅や小豆粥をふるまっていたそうですが、お餅や小豆はかなり高価で振る舞うのも大変だったのだとか。そこで、お餅の代わりに二八そば（うどん粉２そば粉８、現代でも食べられている一般的なそば）を振る舞うようになったそうです。
なぜ、そばなのでしょうか。
もちろんお餅に比べて安価だから、というのが一番の理由ですが、その他にも「そば」に引っ越してきましたという語呂合わせ、細く長くお付き合いしましょうという意味など、いろいろな意味を込めてそばになったという説もあります。
どちらにしても、そばは「引っ越しのときに配るもの」という認識は明治時代も続いていたそうです。その状況に変化が現れたのは、関東大震災のときでした。
関東大震災以降に引っ越しそばの転機
関東大震災の発生した大正末期の頃より、引っ越しそばよりも、より実用的なタオルのような日用品を引っ越しの挨拶に渡すように風習が変化して、引っ越しそばを配るという風習は廃れ、昭和の初期にはあまり見られなくなったそうです。
では、引っ越しの後にそばを食べる風習はなぜ発生したのでしょうか。それは、明治時代、まだ引っ越しそばを配る風習が残っていた時の話にさかのぼります。
元々は、お昼休みの時間に見計らって配られていた引っ越しそばですが、やがて「好きなタイミングで食べてもらえるように」という意図で、そば屋が販売していた商品券「そば切手」が配られるようになっていました。その際、ついでに店屋物でそばを注文したことが、「新居でそばを食べる」風習の始まりだそうです。
そして「引っ越しそばを食べる風習」の方が生き残り、今に至った結果が現代の引っ越しそば。少し面白い経過を辿っていますが、確かに引っ越し当日はとても忙しくてなかなか食事の準備も大変なので、生活の知恵としてはアリと言えるのではないでしょうか。
ちなみに、引っ越しそばは関東独自の習慣なので、関西やその他の地域では引っ越しそばの習慣はないそうです。
引っ越しそばならぬ引っ越しうどんを「風呂」で食べる香川県の風習
引っ越しそばがあるなら引っ越しうどんもあるのではないかと探してみたら、ありました！讃岐うどんで有名な香川県に「引っ越しうどん」の習慣があるそうです。
特に香川県西部に多く残る引っ越しうどんの風習ですが、とてもユニークなことに、新居の風呂に入った時に、家長が引っ越しうどんを食べるのだとか。正確には、「新しい風呂に入りながらうどんを食べる」という風習なので、引っ越しに限った話ではありません。うどん県・香川ならではの面白エピソードです。
引っ越しそばを食べて引っ越し当日を乗り切ろう
引っ越しそばについてご紹介しました。現代では、そばアレルギーの人もいるので、新居のご近所さんに配るものとしては、洗剤やタオルが定着していますね。何かと便利になった現代でも引っ越しはやはり大変なので、食事の準備にパワーを使わない引っ越しそばを楽しむ習慣は、より合理的な流れと言えるのではないでしょうか。引っ越しそばを食べて、大変な一日を無事お過ごしくださいね。
